作品解説:陽気な家

今までの延長戦ではなく、別の系統の家を欲するのも、人の性というもので、いままでの日本の民家をベースにしたものから、少しズラした形で別の表現を試みたのが、今回の陽気な家である。

すぐお向かいの方から「洋風な家がいい」との依頼で、この住宅は世に出現した。「洋風」とは何なのか、改めて考えたが、私のように建築史を勉強した者だと、「洋風」と言っても、イタリアか、ドイツか、フランスか、チョコか、イギリスか、北欧か、一体どの洋風なのか、という話しに進みがちだが、そこはぐっと留まって、かつての日本人がはじめて「洋風」なるものに、接した時に試みた方法、すなわち、のちの建築史研究者に「擬洋風建築」と名づけられる種類の建築に学ぶことにした。つまり、日本の木造住宅の技術を使って「洋風にみせる」ことを主眼に明治の大工が取り組んだことをそのまま援用することで、現代の日本においての「非伝統住宅」の一つの形を示そうと試みた。
ここは日本である。私が勉強してレンガ造の図面をきっちりと書くことは容易だが、つくるのは日本人で、材料もこの地域の材料となる。そうなると、おのずと、出来ることは限られているわけで、明治の大工が直面した状況に私も同じように直面し、ここに、「擬洋風」なる過去の遺産を発見して、敬意を表しながら、そのワザを拝借したというわけである。

特徴的な破風の扱いと賑やかな庇を擬洋風建築とドイツの民家を参考にして形を整えたあと、色彩の面では、瀬戸内の潮の香りと陽光溢れる児島の土地にちなんで、写真のようなものとし、地域にある歴史的住宅とは相容れないが、日本における非伝統住宅のあり方を試みとして取り組み、いままで室内ばかりで行なってきたHappy-Line的行き方を、外観にまで押し広げ、「陽気な家」として、完成させた。
またこの家は、二年前に発生した隣家からの大火事により全焼した住宅の建替え工事として、建てられたものでもあるが、周囲7軒の全半焼を引き起こした酷い火災からの復興のしるしとしての意味もあり、私自身も体験した二年前から今までのさまざまな出来事も思い返しつつ、感慨ひとしおという気持ちで涙して、完成の日を迎えたものである。出来て良かった。