ヤナセ問題

「ガイシャは直ぐに壊れる。壊れると修理費が高い。だからガイシャは乗らない。そもそも値段が高いじゃないか。」

これが、日本において輸入車が敬遠される主な理由である。でも、最近輸入車多くなったよね、というそこのあなた。輸入車シェア過去最高を記録した昨年度(2011年度)でさえ、全登録のうちの比率は7.3%だそうだ。どうだ、低いだろう。
(参考:http://www.asahi.com/business/update/0405/TKY201204050216.html冒頭の理由が主なものだと書いたが、値段が高いのは、分かるけれども、実際に「すぐ」に「壊れる」のだろうか。こういった、噂と言うか、通念というものは、火のないところに煙り立たず、であって、何らか過去の経緯に遠因しているのは確かだろう。それは、なにか。

最近クルマにハマっている山口ですが、建築デザインで儲かったお金をどんどんクルマにつぎ込んでいるとか、そんなことではありません。(そもそも、そんなに儲かってはおりません。)ウインドウズ95が流行る前からネットに親しんだ身としては、情報源はほぼすべてネットであり、取捨選択も上手なので、クルマを手にしなくても、その世界のことは大体手中に収めつつあります。

結論を図にすると、こうなる。

   「ガイシャはダメという社会通念」
       ↑
   「ヤナセ(外車ディーラー)が悪い」
       ↑
   「昔の消費者が悪い」

その昔、60年代、70年代のことだろうが、日本車がまだ性能面で劣っていた時、富裕者層は、こぞって、輸入車を買い求めた。当時は、舶来モノとして、ありがたがっていた時代が尾を引いていたので、さらに、日本人特有の清潔さ、繊細さも相まって、製造メーカが説明書で謳っている「単なる消耗品の交換」という整備を行っただけでも、「壊れた」と言われたり、日本の気候や交通事情による、すなわち、メーカ由来の故障ではない場合でも、「壊れた」と言われたりした。
そんなとき、販売会社の担当者に向かって、そのお金持ちは言ったのではないか、「金のことはいいから、とにかく直せ」、と。いや、そう積極的に言わないまでも、「舶来モノだから、高くても仕方がない」と、諦めながら、札束を手渡したのではないか。*1
現在ヤナセ等が、重量整備体制(過剰整備で整備費高額)になっているのは、昔の外車乗りがナンクセ付けまくって、お金で解決していたからだ、というのが、私が得たここ二年ほどのネット検索の成果です。考えてみれば当たり前だが、欧州でおばさんが普通に乗っているクルマ(例えば、フォルクスワーゲンのゴルフやメルセデスのCクラス)が、日本ではとても乗りこなせない高級車だ、なんてことは、どう考えてもあり得ない話であって、そこにはなにか、間違いがあるはずなんです。
そういう、時代を経て、日本人は高くてもクルマを買ってくれる、という何かしら変な構造が出来上がって以来、たとえば、メルセデスのCクラスは、ドイツで販売しているグレードのうち、一段高いグレードのしかもオプションがバッチリついたものを、日本向けに仕立て直して、送り出すようになりました。それは、400万円だそうですが、もっとグレードの低いクルマを売ってくれても良さそうなものですが、値段が安いとブランドイメージが壊れるのでしょうか、そういうことはしないようです。また、今日では、ディーラーで買う値段の半分以下で、同じ部品がネット通販では手に入ります。こういうのを知ると、五年ほど経って値落ちした中古車を買って、安い部品で修理しよう、という考えに至るのは、普通であって、今後この勢力が、ヤナセ等の輸入車ディーラーを席巻することになると思います。

さて、このまま建築の話が出ないままに、閉じようとしていましたが笑、翻って、建築の話です。この「ヤナセ問題」というのは、戦後の住宅生産構造にも通じるものがあります。
すなわち、新工法の住宅です、と、大きな看板を掲げたトタン、昔の日本の建物よりも、「イイものだ!」という意識を持つ消費者の都合を幅広く聞く代わりに、そのコストが少しづつ上がって行くと言う、仕組みです。「イイもの」にお金を払うのは仕方がない、という考えも背中を押しました。
おまけに、膨大な広告宣伝費やら、本社等の直接生産に関わらない部門を支える為の経費とかを考慮して、消費者が100円払った時に、どのくらい目の前の住宅に使われたかと言うと、おそらく、50円を切っているのではないか、と思います。そんな家ばかりが、並ぶものだから、自分たちが汗水垂らして働いたお金を山と積んでも、この程度の質の家しか手に入らないのか、と、残念に思うのです。

その残念さに気付いた方のお手伝いをしよう、というのが、我々設計者の仕事です。住まいを諦めない、という思いを共に、今日も仕事に励ます。

*1:実際聞いたところによると、ボルボ240セダンを二十年前に乗っていたある方は、「右前輪サスペンションの修理(マクファーソン・ストラット式)に、30万円支払った」と言われていました。耳を疑いましたが、実際そうだったのだから、仕方ありません。その方はそのあと、240を乗らなくなったそうですが、それは正しい判断だと思います。販売会社が悪いのですが、過去のお客さんがもっと悪いのです。