作品解説 土間の家3

「土間空間の効用」(一般向け)

 日本の住まいから、「土間」が消えたのは、それほど昔のことではない。戦後期に「田の字型」平面の土間や町家の「通り土間」が、文化的といわれた改修によって、床が張られていったのは、火と水の扱いが容易になった為と、勤め人が多くなったせいである。
 一度上げた床を、もう一度下げてみようと思ったのは、下げることによる効用の方が高いからで、床組分の工事費が安くなったにもかかわらず、天井が高くなり、より広い室内空間が得られるとともに、中庭とのレベル差も解消され、内外の連続性も確保され、中庭をもう一つの「室内」として、取り込むことに成功している。温熱環境では、モルタルの熱容量の高さを利用して、冬季の日光に寄る熱と、薪ストーブに寄る熱を、緩やかに放熱してくれて、昔ながらの技術を使いつつ、温熱環境向上に成功している。
 施主は農家の子息だが、土間空間の使い方については、家業の例を下敷きにした上で私の設計実例を見て気に入ってくださり、いまでは人を招き入れるのが楽になったと喜んでくださっている。気になるのは、住宅内に持ち込まれる土くらいのものだが、道路は舗装され尽くされているので、そんな心配も少ない。むしろ、土の量が新しい客人との出会いを表していると考えれば、歓迎したい気持ちにもなる。

モルタル土間で熱容量を確保する」(環境好きな人のため)

 温暖な瀬戸内海気候をもつ、岡山県南部では、冬季もそれほど気温が下がらないが、昔ながらの技術で、温熱環境を向上させる方法として、今回は、玄関から居間食堂部分に亘って、モルタルで作った土間を導入した。
 冬季の低い角度の日射熱を取り入れつつ、薪ストーブによる熱を、広いモルタル土間は蓄えてくれる。玄関ホールの居間食堂側の壁も、外壁と同様にモルタル下地の吹き付け塗装としているので、ここでも、蓄熱を図っている。冬季だけでなく夏期の冷房による熱も、蓄えてくれるので、急激な温度変化が少なく、これは健康的だと言って良いだろう。土間とすることによって、天井高が上がるので、夏期の暖気を効率的に外界へ導くことにも成功しており、床組をなくして工事費を稼げただけではないポテンシャルを、モルタル土間はもっている。
 乾式工法が多数を占めている今日、あえてモルタル土間や土壁を採用する利点は、外部の音の遮蔽、乾燥期の加湿、そして熱を蓄えて室内温度変化を緩やかにしてくれることだ。目に映る雰囲気が良いというだけで、その雰囲気を楽しむことが目的となった場合、行き着くのは、石膏ボードに貼る「土壁風のクロス材料」だが、見た目も偽物である上に、機能的にも何の役に立たず、五年後にクロスの端がめくれてくるころには、賢い施主ではなくても、自らの選択の過ちに気付くはずだ。