アーリーアメリカン調の雰囲気


「アーリーアメリカン調」とは、なんとも有難い言葉です。そんなことは考えたこともありません。「その昔、ニューヨークSOHOに移り住んだ芸術家たちが、自分で倉庫を改装する際に、手頃な材料を使って、かたちを整えた上で、塗装を塗りたくって、その場を整えた感覚に似ている。」とでも言って欲しかったのですが、手前の台所の深緑色(モルタル下地のペンキ塗)が効果を発していることに対しては、カレンダー屋さんの目は向かなかったようです。何年か前に撮影されたものが、来年向けのカレンダーの題材として使われました。
どうして、昔ながらの材料であるレンガ、モルタル(木、石、土も同様)などを多用するのかというと、戦後日本の住宅産業でガンガン普及しているものを利用すると、同じ値段であっても、時間の経過に耐えられないのが明白だからです。見た目も機能もです。お金に糸目を付けないのであれば、なんとでもなりますが、通常は予算枠というのがありますから、その枠いっぱいで長年使うものにどのくらいお金を投資できるか、という点で見れば、接着剤と樹脂製のものを多用している現行の住宅産業の行き方は、立ち行きません。
ここでペンキが登場するのは、「モダン化」を図っている訳で、手軽なモダン化の筆頭であるペンキ塗装というのは、かつてのSOHOの住人を持ち出すまでもなく、今日でも有効だ。




わたくし、建築史専攻で修士号を拝受していますので、「アーリーアメリカン」なる言葉に若干の意見を与えると、こうなる。
歴史の浅いアメリカ建築は、その国民が移民によって成り立っているのを反映して、その地域ごとに、移住して来た祖国の建築の影響を色濃く受けている。イギリスはもちろんのこと、ドイツ、北欧、東欧、スペインなど、自分の国の建物の特徴を、新しい土地で再現して、アイデンティティのよりどころとしながら、小さな街を作っていった。アメリカ近代建築史に名を残す、ルイス・サリバンの建築がその近代的機能に比べて、装飾が豊かに感じる理由がここにある。それは彼が、師であるリチャードソンを通して得たボザール式教育だけでは説明が出来ない。その豊かさは、アメリカに移住して来た人々の振る舞いを尊重しながら、かたちを作っていった所以だった。
「アーリーアメリカン」というのは、狭義には東海岸において、先住民を押しのけて移住して来たイギリスの民が作り始めた時代の言葉であるはずだが、もう少し幅を広げて、後年に他国からの移民が作っていた地域主義というか、土着主義的な建築が、近代建築以前のアメリカにとっての「アーリーアメリカン」である。
そういう意味では、我が心の師ヴォーリズも「アーリーアメリカン」です。ヴォーリズは、南西部の出身で、その地域にスペインからの移民が多くて、ヴォーリズ自身が建築活動を始めた時に、手がかりとなったのが、故郷に並んでいたスペイン風の建築でした。世界的スパニッシュ住宅の作家ヴォーリズは、「アーリーアメリカン」を日本に伝えた伝道師でもありました。


関西学院キャンパス内の職員住宅、昭和4年築)

とにもかくにも、ヤマグチ風の建築を確立する為には、まだまだ、試行錯誤が必要です。