キャミソール問題

 さて、ヒョンなことから、合板をそのまま仕上げとした壁をつくることになってしまった。いままでは、あくまでも合板というのは、「何かの下地」であって、その「何か」のために存在する便利な平面をつくってくれるものに過ぎなかった。それが今回は、「オモテ」に出てくるというのですから、大変なことです。「下地」が「仕上げ」になるのです。それは、上級と下級の境界が曖昧になっているのであり、上級が何かを知らない人が溢れている現代にとっては、ひとつの必然だろうとおもう。

   

 でも、考えてみれば、いつもやっている「土壁中塗り仕上げ」というのは、「しっくい」や「じゅらく」などの下地だから、つい最近、「下着」であったはずの「キャミソール」が、「上着」になれたように、合板だって、そのまま露出して、どうだカッコいいだろう?!という感じになれるかもしれない。という、仮説を立てている。かつては、背の高い草を壁にしていた東南アジアの民家たちの壁が、現在では、「トタン」を身にまとっているのと同じように、ホームセンターで気軽に買える「合板」が店舗の壁を埋め尽くしても、何の不思議もないのである。戦後の住宅生産構造によって、規格品が世に溢れていて、それらによって日本の住宅が造られていることはまぎれもない事実であって、その恩恵に敬意を払わず、あれはダメダ、ダメダ、という日本建築史のセンセイもいるが、それはそれで現実の人々の生活を文字通り守っているのであるから、あんまり指差して揶揄しない方がいい。ああいう巨体に敵対して歯向かうには、僕のようにゲリラ的にやっておいて、さっと逃げるのがいい。
 問題は素材感だが、荒削りを旨とする我が事務所の作風にとっては、合板という素材は案外ベストマッチなんだと思う。モルタルにペンキを塗って、ああ、これはいい、といってもらう為には、ワザと土足にしてみたり、周りの木を仕上げなかったりしたが、今回も、この合板がいい。と言ってもらう為には、ひと工夫が要りそうだ。

   

 下着が外に出ているのだから、黒色とか地味なものではなくて、赤色とか、派手な色に塗るのがいいとおもう。見てはいけないものを見てしまったというドキドキ感もあってもいい。タグをオモテに付けるみたいに、「JAS承認 シックハウス対応 F☆☆☆☆」などの、黒色の刻印もあえて残したままにしておこう。何ならクリスマスみたいに、赤、緑、黒、みたいなハッピーな色使いもいい。うん、それでいこう。