ナナムラ設計

最近、楢村さんが調子がいい。二つほど、エピソードを披露する。

付き合いのある工務店の社長が、昨年12月だったか、僕との打ち合わせを終えて、楢村ボスに挨拶したときのことだ「先生、今年もお世話になりました。また、見積りお願いします。このままでは年を越せそうにないんで。」

ボス「ほんなら、越さんでええが。」

とこんな感じである。一同、絶句のあと大笑いした。工務店社長が冷や汗をかいていたのはいうまでもない。このご時世どこも少しでも仕事がしたくてイライラしている。そんななか自分たちの窮地を訴えるように言った社長の一言に、ボスは真顔で答えた。

初めて訪れるお客さん(建築主、施主)が「工務店ハウスメーカーの住宅と楢村さんの建物との違いがよくわからないんです。一度言葉で教えてください。」と言った。その人は頭で理解したい人のようだった。

ボス「見て分からんものが、聞いて分かるわけがない。まずいまんじゅう食わされて、店のもんにこれはこうこうこういう風につくっているから美味しいですよ、と言われて、美味しいとアンタは思うんか。」

これもキツい。普通お客さんに向かっては気に障らないようにやんわりと言うものだ。それを楢村さんは、嫌われてもいい、分からなければ、理解してもらわなければそれはそれでいい、と思って挑発しているかのようだ。

知恵のある人というのは、短い言葉で真理を言い当てるような発言をする人が多い。ズバリと言い切ってしまうのである。ある時聞いたのだが、文句をいう時や喧嘩をするときは必ず理屈で負けないというシュミレーションを何度も何度も繰り返した上で、決め台詞も暗唱した上で乗り込むのだそうだ。逆に言えば必ず勝てるときだけ、文句をいう。こんなことは、ボス本『倉敷からの発信』には書いていない。あの本に書いてあることは日々ボスから叩き込まれていることの一端が書いてある。思えば贅沢な時間を過ごしている。僕の住む地域では、素人が知っている建築家といえば、安藤忠雄か楢村徹といったところだろう。伊東豊雄は知らなくても楢村さんは知っているし、磯崎新は知らなくても、楢村さんを知っている人は多い。

今日のことである。ある難しい案件で、行政の担当課に僕が相談に行ったときのことだ。ヤマグチ「楢村設計のヤマグチと申します。◯◯さんおられますか。」近くのお兄さん「ああ、ナナムラ設計さんね。ちょっと待ってください。」(今、ナナムラ、って言ったよな、と心の中で僕。その後、担当者がトイレから帰ってくる)近くのお兄さん「ああ、◯◯さん。ナナムラ設計さん、来てますよ。」(おいおい、楢村だよ!楢の木のナラ!!)そのあと、打ち合わせをしながら、その職場の掲示板に目をやると、「10時、ナナムラ設計、ヤマグチ」と書いてあった。

まだまだ、やるべき仕事はあるようです。