野生の家

7年前の春に学業を終えて入社した会社は、楢村徹設計室といって,古民家再生と後に言われる特異な分野を開拓した楢村さんの事務所でした。

日本の住宅は,竪穴式住居を経て,室町から始まり,江戸期に成熟して、明治、大正、戦前と続いてきたそれぞれの地域地域に根ざした様式を持ったものでした。それが戦争によってプツリと途切れて、今日のような風景が出来上がっているのです。「古民家再生」というのはどういうことかというと、あたかもそういった不毛とも言える断絶がなかったものとして,日本の伝統建築が、今の時代まで続いていたとしたら、きっとこのような姿に成っていただろう,成っていてほしい、と求めながら、個々の設計者が努力しているものなんです。

室町時代の住宅の一例としては、神戸市の箱木千年家を挙げておきます。このころに日本の住宅の基本様式が各地域でできつつありました。

http://www.city.kobe.jp/cityoffice/57/032/bunkazai/syokai/hakogi.html

このような日本の伝統建築の流れを受け継ぐ住宅のことを、野生の家とここで呼んでみることにします。家というのは人間が意図して作ったものなので,自然とか野生という言葉は当てはめてはいけない人工物ですが,戦後期の数十年でできてしまった住宅生産の仕組みによって次々と建てられる建物とは明らかに違うものとして、捉え直すためにあえて「野生」と言っています。時間とお金がない、資材もないという混乱した状況でどんどん住宅を作る必要があった時代と、今日とは違うはずです。「持ち家政策」を未だに前提にしている国の方針にはほとほと嫌気がさします。

それは、庭に例えれば、こういうことです。自然な庭を造ろうと一生懸命に考えて巧みに作庭することではなく,風や鳥が運んできた種子がそのまま成長し、その地域地域に自生した庭があって、管理する側としては各々の性格に応じて面倒を見て,整えていく、調整していくことが主な仕事となります。古民家再生とは現代まで生き延びている野生の家を整えていくことですし、現代の感覚に照らし合わせて調整していくことです。

新しい年が始まりました。クリスマスやお正月といった華やいだ時は過ぎて、日常が戻ろうとしています。僕にとっては大事な年になりそうです。この日誌を読む皆さんの歩みが祝福されますようお祈りします。