改めて、「私の姿勢」

漆黒の天井と共に
下津井の路地の中で生まれ育った私は、オイルショック後の生まれとしてはめずらしく、自然と日本家屋の持つ魅力を体感できる環境で育ちました。明治末の実家には、通り土間と井戸があり、神棚が至る所にありました。また、漆黒の天井がつくる薄暗い空間や、艶やかに光る大黒柱、透かし彫りのある建具など、日本家屋のエッセンスのようなものとともに成長しました。

建築史研究
17歳の頃、近江八幡の外国人建築家ヴォーリズに魅せられて、建築の道を志し、西欧教会堂の歴史研究を行ない、後には、日本の土壁について、地域に根ざす生産体制と土壁の効用について研究しました。建築の歴史全般を把握した上で、郷里の倉敷に帰り、設計の実務につくこととなりました。

建築デザインと古民家再生
建築デザインという高度で入り組んだ技能は実務の中でしか身に付きません。倉敷美観地区設計事務所で、デザインのイロハを教えて頂き、古民家再生の牽引役でもあった所長・先輩から、民家の再生デザインについても教わりました。デザインに疎い私に念を押して、教えてくださったのは、「洋の東西を問わず、質の高いものを作れ」、また「風景になる建物をつくれ」ということでした。

ヤマグチ建築デザイン
30歳の頃、自分の新しい家、兼将来の事務所を考えるにあたり、今まで蓄積されたものを総動員して、低予算の家の一つの回答を導きました。荒削りの木、土足生活、モルタル下地のペンキ仕上げなど、自分と同じ世代が住宅を建てる際にも、提案できるようなものを盛り込みました。33歳の時に退社、独立をして今に至っています。

戦後の住宅生産体制を超えて
第二次大戦後の日本では、短時間低予算で大量の住宅が必要になりました。また、経済政策としても新築住宅を歓迎し、技術にすぐれない者でも住宅を造れる産業体制が整いました。この「戦後の住宅生産体制」の中で,「nLDK」という住まいを捉える枠組みも定着し、核家族化も相まって、戦前とは異なった方式で、大量の住宅が生産されました。私はこの「戦後の住宅生産体制」が、綿々と続いて来た日本家屋の歴史をぷっつりと断ち切ってしまったかのように感じています。私の姿勢は、この「断絶」が、仮になかったとしたら、室町から続く日本家屋の伝統が現代にまで生き延びたとしたら、どのような住まいがあり得るのだろうか、という視点で、建築デザインを行なっています。

住まいを諦めない
「戦後の住宅生産体制」が、あまりにも大きな体制のため、その仕組みはあらゆる住宅生産に及んでいます。この体制によって造られる住宅は、石油生成材料を大量につかっていますので、できた時がいちばん見栄えがよく、その後は時間と共にだんだんダメになっていく宿命を負っています。では、「自然素材を使っています」と謳う住宅であればよいのか、といえば、それだけでは不十分です。そういう住宅というのは、「nLDK」という考えの枠組みは同じであって、いってみれば、ただ単に材料を置き換えただけに過ぎません。「太陽光発電住宅」などに至っては、「建物」で人を惹き付けられないのを認めた上で、「機械設備だけが取り柄の住宅です」と開き直って白状しているようなものです。「防犯」も然りです。
そのような戦後住宅に囲まれて生活し、また、購入する住宅のほぼすべてが戦後住宅になっている今日、ひとびとは、本来の住まいの効用に対して期待をしなくなっているのではないでしょうか。しかしながら、そのような中でも、「居心地の良い部屋」「生活をイキイキとしてくれる部屋」「人々を出迎えてくれる素敵な庭」「私だけの中庭」を求めて、雑貨店やガーデニングショップに走り、あるいは家具やカーテンを自分好みに取り替える人々が多くいます。「住まいはどうしようもないけど、インテリアならなんとかできる」。あるいは「家は無理だけど、庭なら整えられる」。そのような考え方です。しかし、それでいいように思うのです。あと少し予算を増やした上でプロに依頼し、「部屋」を「住まい」に、「庭」を「住まい」に置き換えればいいのです。そういった方々は、住まいを諦めない方々です。

豊かな住まいをめざして
住まいを諦めない。その想いを受け止め、大きく膨らませ、かたちの無いものにかたちを与え、そして、現実のものにすること、現実に暮らし、味わっていただくこと。それが、私の役割です。
ヴォーリズは言いました。「もしも建物がその設計において、建物において、充分均整のとれたものであれば、感情的にも道徳的にも何等かの感化を与えるはずである。・・・その最も重要なる機能の一つは、(そこに生活する)人々の心の中に、洗練された趣味と美の観念を啓発することでなければならない」。こういったことを「建築の機能」だと捉えて、仕事に向かっていた方を私は尊敬します。
「粗末な材料で、納屋程度しか建てれない」「部屋の一部しか改修できない」……そんな予算の中であっても、身の丈に合った自分自身の生活を楽しむ家を作ろうではありませんか。かねてから暖めていた趣味を満喫する家。長年住んでも色あせず、むしろ、ジーンズのように色あせても魅力的に見える家。毎日が楽しく、旅行先のちょっと高い宿に泊まっても、「自分の家の方がいい」と感じられる家。そんな家が、住まいを諦めないあなたにはふさわしいのです。ヤマグチ建築デザインは、以上の心得を以て、豊かな住まいづくりに取り組んでいます。