作品案内4「カフェゲバ」

 美観地区にある旧林薬品(現エバルス)本店の一室、かつての薬品出荷場を、立ち飲みの喫茶店として改修した仕事。「厨房を真ん中に持って来て、周りを取り囲んで、立ち飲みだけにしたい」との希望のもと、二、三人が入れる厨房をつくり、大きなカウンターをつくった。
 素材は何度も試みているモルタルに塗装をした塊だ。再生工事であり、土足で踏み込む空間だということで、中央に配するカウンターにはそれに負けない強さが必要とされる。室内の床壁天井に対しては、ほとんどの操作をしていない為に、年月を経た外殻に、対抗しうる塊にする必要があった。卵形平面、というのは結果論であって、立ち飲みをする人にとっての程よいスペースを確保しつつ、かたちとして緊張感を持ったものにした結果が、傾斜した断面を持つ卵形となった。通常、曲面をつくるのは、大工左官共に、苦労の要るところだが、完成後の出来映えを見て、彼らも満足したようだった。
 今回は、商業空間なので、道行く人に魅力的に見える必要もある。外を歩く彼らとコーヒーとの関係は、店に入る前からはじまっている。ガラス越しに見ると、石油タンカーのようにも見えるし、大きなバスタブのようにも見える。コーヒーそのものについては、写真では説明できないし、拙い私の舌では恥ずかしながら、「おいしい」としか言いようがない。いや、とっても「まずい」から、どんなに「まずい」か、いっぺん飲みに来たら?といったほうが、興味を持ってくれるかもしれない(笑)。店の名前は、「カフェゲバ」。美観地区内の旧中国銀行本店から、西へ少し行ったところにある。石油の色をしたエスプレッソは、とってもまずいから、君も一回行ったほうがいい。石油タンカーのエスプレッソは、とってもまずかったよ。と、次の日に自慢が出来る。

 なお、本物件の依頼者は、京都の焙煎家大宅稔さん。大宅さんとは赤星豊さんを通じて知り合った。また、この施設全体の設計が、楢村徹設計室であったことも特記しなければならない(各テナントの内装は、別になっている)。別に記したように、私から見ると、楢村さんにとっても、古民家再生工房にとっても、大変に意義のあるプロジェクトだったし、現在も隣の街区でこれ以上のものがすすんでいる。二十年前に始まった、岡山の古民家再生の手法が、個別の建物だけではなく、街区に対しても適用しうることを、楢村さんは現実の仕事として行なっている。楢村設計室で学んだ身としては、またこのテナント設計をした身としても、その楢村さんの仕事ぶりに興奮を覚えていることを、ここに告白する。